福岡・西中洲の入り組んだ路地には様々な飲食店が軒を連ねる。その中で一際名を馳せている和食の名店がある。
【茶懐石 中伴】だ。
茶懐石(ちゃかいせき)料理とは、「懐石料理」ともいわれ、千利休が大成させた茶事に出される簡素な料理とされている。
店主は中川敏行(なかがわとしゆき)。働くなかで人々との出会いを経て、和食を極めることを決心した。そして自身の直観のもと、京都の名だたる老舗料亭「瓢亭」に単独で赴き、その強い信念を認められ入店した。以降、目まぐるしく変わりゆく時代の中で料亭のとてつもない繁忙期を支えた。培われた審美観、確かな技術は一世を風靡したテレビ番組「料理の鉄人」をはじめ多くの客人の心を捉えてきた。
茶懐石の名のとおり、中川氏自らが亭主として茶を点ててくれる。作法がわからなくても、気にしないで。素直に感じるままにいただこう。
和食の真髄といわれる京都の地。「初めていらっしゃったお客様に、啓蒙していく義務がある」と語る中川氏。代々料理人によって受け継がれた技が、ここ福岡で味わうことができる喜びを感じてほしい。設え、料理、そして店主の一つ一つの所作から伝わる客を慈しむ心。言葉には出さずとも、それはあたたかく、確かに伝わる。詫び寂びの心をあらわす「間」に浸ってほしい。
茶懐石料理の由来
茶懐石(ちゃかいせき)料理とは、茶事に出される簡素な料理とされ、単に「懐石料理」ともいう。
この懐石という言葉は「禅」に由来し、修行中の禅僧は昼の食事以外をとることが許されていなかった。寒夜の修行には石を温めて布に包み、懐に入れて寒さと空腹をしのいだといわれている。
この温めた石を懐に抱いたので「懐石」の名が出たとされ、禅僧が空腹をしのいだということから、「空腹を一時しのぐ」という意味をもっている。
その後、禅の影響を受けた茶の湯では、茶事に出す軽食を「懐石」と呼ぶようになった。
また、濃茶(こいちゃ)は空腹に飲むと、刺激が強すぎるために胃をあらし、苦味を強く感じて本来の味が味わえないので、濃茶をおいしくいただく目的で懐石料理が出されている。
お茶の席に懐石料理を出すようになったのは、室町時代に入ってからのことで、その後「千利久」が懐石料理を大成させたとされ、現在に伝わっている。懐石料理は茶事に組み込まれた膳組作法で、旬の材料を用い、素材の持ち味や季節感を生かした料理で、心を込めて客をもてなすところに本意や真髄がある。
writer:Chie