焼酎の麹に「米」、この常識を覆し、業界初の「いも麹」を使用した焼酎造りによって、焼酎の可能性を拓いた蔵元、国分酒造。最近では、大正時代の製造方法の復元、明治・大正に存在した芋「蔓無源氏」を復活させた焼酎造りで話題を作った。時代に流されず、独自のスタイルを築いている。造りへの浪漫を追求し、挑戦を続ける国分酒造。愛情を注ぎ、育てた焼酎は、想いを共感する特約店酒販店へ託され、全国各地の酒好きを魅了している。
Q特約店販売にこだわる理由を教えて下さい。
私たちの蔵の代表銘柄の1つである「いも麹 芋」が生まれたのは、地元の酒屋さんからの提案がきっかけでした。いも麹での焼酎造りはリスクも多かったんですが、試行錯誤の末、業界初の芋100%の焼酎を生み出すことができました。初年度はこの焼酎の発案者である石野商店だけで販売しました。その後、より味わい深い「いも麹 芋」を造ることができるようになり、全国発売を開始しましたが、各地の酒屋さんを一件一件尋ね歩き、「いも麹 芋」を理解してくれる酒屋さんだけに、その販売を託しました。 我々は目の届く範囲、手の届く範囲での焼酎造りに臨んでいます。その想いは、販売に置いても同じです。「いも麹 芋」の販売方法と同じように、信頼関係を築いた酒屋さんでしか販売しません。蔵の人間は、消費者の方にこの焼酎はこんな仕込みをしています・・・などと直接話しをする機会はなかなかありません。この焼酎がどんな焼酎かを知って頂き、理解した上で選んでいただきたいと思っていいます。造り手の想いをちゃんと分かってくれる酒販店さんなら、安心して託すことができます。国分酒造の焼酎のラベルには、販売店の店判を捺しています。「我々が心を込めて作った、わが子のような焼酎の行く末を、各販売店に委ねます。よろしくお願いします。」という気持ちを込めて…。造り手と売り手が共に負う約束の証ですね。
Q焼酎を造る上でこだわっていることは?
我々の信条は「良い焼酎を造り、良い管理をして、信頼できる酒屋さんに委ねる」こと。良い焼酎を造るためには、時間と手間は惜しみません。現在力を注いでいる焼酎「蔓無源氏」も時間をかけ、苦労を重ねた焼酎です。国分酒造には「大正の一滴」という、大正時代の製法を復元し、造った焼酎があります。後に、原料にもこだわってこそ、本当の意味での復元ではないかと思ったんです。明治・大正時代に食され、品種保存の為に、植え継がれていた苗を鹿児島県の農業試験場から10株分けてもらい、地元の農家谷山秀時さんに、芋の栽培を依頼することから始めました。品種改良されていない、「蔓無源氏」は、現在の気候や土になかなか馴染ず、ゼロからのスタートでした。今でもこの芋の特性を活かした栽培をできるのは、谷山さんしかいません。思考錯誤を繰り返し、10本の苗を増やし、「蔓無源氏」全量で仕込むまでに、約5年かかってしまいました。大正時代から存在するこの「蔓無源氏」は、芋そのものに力強さがあります。焼酎へと姿を変えても、芋本来の甘い香りが漂う個性的な焼酎になりました。「蔓無源氏」造りに取り掛かったのは、焼酎ブームの真っただ中、焼酎が大量に求められる時代でした。今振り返ると、時間や手間のかかる上に先の見えない事をしたものだと思うんですが、そんな時こそ、地に足を付け、焼酎ブームが去っても生き残ることのできる、良い焼酎を造らなければと、その一心でしたね。
Q今後の焼酎作りについて考えることは?
我々が次に取り組んでいるのは本格焼酎のもう一つの原料である「米」。元来、焼酎業界全体では、芋焼酎の麹米には主にタイ米が使われていました。粘り気の少ない硬質のタイ米は、焼酎用の麹造りに適していて、ある意味、タイ米が焼酎ブームを支えたと言っても過言ではないと思います。しかし、平成20年9月に起こった「汚染米事件」をきっかけに、米に対する考え方に大きな変化が起こってきました。特に、平成23年7月より、米の原産地表示が義務付けられるのを受けて、今年(平成22年)の仕込みから、国産米を使う動きが広がっています。国分酒造でも、今後は国産米を使用する方向で進んでいます。その中で、「蔓無源氏」に使う麹米については、「夢十色」という米を使っています。地元農家に栽培してもらう「夢十色」は、タイ米と同様、粘り気の少ない米で、同じ要領で米麹が造れます。ただ、タイ米と大きく違うのは、どこで・誰が・どのようにして、この米を作ったのかが分かることです。つまり、我々のモットーである、自分たちの目の届く範囲、手の届く範囲での焼酎造りに更に近づくことができます。「蔓無源氏」の麹米を全量、霧島産長粒米「夢十色」にする取り組みは平成21年より試験的にスタートし、平成22年の「蔓無源氏」の仕込みには全て「夢十色」を使うなど、本格的に進んでいます。地元の米農家にとっても、それまでは、国の政策等の影響も受けて、利益がほとんど生み出せないような状況になっていたため、今回の自分たちの取り組みは、生産農家にとって喜ばしいことであり、今後の励みにもなっているようでした。焼酎業界は焼酎ブームにより、ほとんどの蔵が売り上げを伸ばしたものの、ブームの終焉並びに、最近の不景気の影響を受けて、厳しい状況になっています。我々もその煽りを受けているのは事実ですが、今まで同様、国分酒造ができる範囲内の努力は続けていくつもりです。
〒899−4303
鹿児島県霧島市国分川原1750
TEL. 0995−47−2361
HP:http://www.kokubu-imo.com
※国分酒造では、社会貢献の一環として、一升瓶一本の売上の中の1円を、社会福祉団体などへ寄付を続けている。また、焼酎をより美味しく飲むための「前割り」をススメており、専用の前割り焼酎瓶も製造・販売している。