Q 焼酎造りでこだわっていることは。
私が鹿児島に戻った時、残念なことに地元の居酒屋さんでは、加世田の焼酎が並んでいなかったんです。その時、地元の方に毎日飲んでいただける焼酎、郷土の特産品として誇りを持てる焼酎を造らなければと強く感じましたね。その想いもあって、地元加世田限定販売の、加世田の米・芋、加世田水源地である内布から採取した水をつかった「かせだんもん」という焼酎を醸しました。やはり、地元の人に喜んで飲んでもらう事がこの土地の杜氏冥利に尽きますからね。
焼酎ブームによって、芋焼酎は全国区になり、幅広い層の方に飲んで頂けるようになりました。そのため、芋の香りを抑えた、飲み易いと言われるタイプの焼酎が増えました。そんな中で、私の焼酎造りは逆行しているかもしれません。「インパクト、バランス、キレ」この部分にこだわり、一口で「宇都酒造」の焼酎と分かっていただける、個性のある焼酎を目指しています。
宇都酒造は、家族経営の小さな蔵、私が杜氏として焼酎を造る県内でも数少ないオーナー杜氏の蔵です。小さい蔵にしか出来ない手間の掛け方があると思うんです。今一番優先すべきは、自分自身が納得して世に送り出せる焼酎を造ること。歴史や伝統といった、先人の気付いた焼酎造り、つまりは「レシピ」を変えるの必要はないですが、基本的な材料・行程も同じ、その中で今まで以上のものを生み出す、私が考える理想に近い焼酎が造れるかを試しています。焼酎造りは、わずかな温度差や発酵時間の変化によっていかようにも変化します。この変化に新たな可能性を感じています。挑戦することで、沢山のリスクを背負う事にもなりますが、今は果敢に挑戦する時期だと思っています。子育てに例えると、真面目なイイ子に育って欲しいというより、「腕白でもいいたくましく」でしょうか。安定した味を生み出すことは大切です、その前に今の私は仕込みを重ねるごとに、変化・向上し進化する焼酎造りに没頭しています。
Q今の焼酎業界について思うことは
焼酎ブームの落ち着きと同時に、若年層の酒離れや、安く販売される甲乙混和焼酎の消費増加などと課題は山済みですね。鹿児島が誇る文化「本格芋焼酎・黒糖焼酎」の価値をどう広めていくか、さらには今年10月から義務付けられる「米トレーサビリティ」と言った産地表示の義務まで。焼酎作りでは粘りの少なく、麹菌が均等に繁殖できることから、タイ米が焼酎作りに適しています。ですが、消費者は海外の米より国産米が安心と感じているようです。産地表示に関して、業界全体でどう取り組むかは課題となるでしょうね。
Q今後の展望をお聞かせください。
焼酎ブームが起きた裏には、各蔵の地道な努力があってこそ。これまで先輩方が、県内はもちろん、県外の酒販店様を一軒、一軒自分達の足で訪ね歩き築いて下さった横の繋がりや、歴史、情熱をしっかりと受け継いでいかなければなりません。同時に、次の世代と言われている我々若手は、新たな改革を求められている時期だと思います。
蔵の中での仕事に追われてしまっているのが現状ではありますが、もっとお客様や酒販店様に直接お会いし、生の声に耳を傾け、交流を深めることに力注ぎたいと思っています。