逆境を転機に。兄弟で築く骨太な蔵元

災害から生まれた「焼酎と人」の絆

     小牧醸造株式会社 小牧一徳さん・小牧尚徳さん




2009年で創業100年を迎えた薩摩郡さつま町の小牧醸造株式会社。父の小牧伊勢吉氏を筆頭に、現在は子息の長男一徳専務・次男の尚徳常務が中心となって蔵を切り盛りしている。
100年目と言う節目に立つ小牧醸造だが、今に至るまで1972年の集中豪雨による災害から休業に追い込まれ後7年後ようやく再開するものの、焼酎ブーム真っ只中の2006年、再び水害に見舞われると、決して恵まれた道のりとは言えなかった。しかし、それゆえに今日の骨の強さ・情の深さを感じさせる蔵元へと成長を遂げているように思える。
 

Q焼酎造りへのこだわりを教えて下さい。

A 小牧一徳 専務 

 焼酎造りも機械化が進む中、私たちの蔵は甕壺仕込み、手漉き濾過を行っています。先端技術を導入した焼酎造りも一部ありますが、柱となる焼酎を手作業で行っているのは、昔から続けている当たり前の作業、小牧醸造にとってのスタンダードなスタイルだからです。例えば芋の選別ひとつにしても、「自分の子供たちや、大切な人に食べてもらえるか」を基準にして選別するよう、スタッフに伝えています。
 芋や麹は生きものです、常に同じ状態ではありません、微妙な変化に気づいてあげられるのは人の手だと思うんです。
 焼酎の可能性を広げるため、最新技術を取り入れることも大切ですが根本は「昔ながらの製法」。伝統をベースに、いかにして旨い焼酎を造るか、そこに面白さを感じています。焼酎はその年の芋の性質に加え、杜氏のちょっとしたクセによって、毎年同じものを作ることはできませんが、大切な事は蔵の資質だと思うんです。この場所で蔵を守り続けている以上、焼酎造りの7割を占める水は変わりません。この地方の水は硬度が46℃と、県内でもかなりやわらかな水です、自然の貴重な資源と、代々受け継がれてきた「小牧の造り」を守りながらも、今の我々の個性を出していければと思っています。
 今私が大切にしている事は、「横の繋がり・人の繋がり」ですね。先代や杜氏から現場で実践しながら体に叩き込まれて学んだ面に加え、広島の酒類の研究機関で学んだ際、技術と共に、焼酎はもちろん、清酒の蔵元さんとの繋がりも生まれました。焼酎に限らず、酒造りに関する意見交換は、沢山の発見や刺激を与えてくれます。焼酎の販売・造りいずれも人との繋がりが我々を強く支えてくれていることを肝に銘じ、期待に添えるよう日々邁進していきたいですね。


Q焼酎への想いをお聞かせください

A  小牧尚徳 常務

 2006年の災害では、酒販店さん・業者の方々、そして遠くは北海道から全国各地の焼酎ファンの方々が救済活動のため蔵を訪れてくださいました。世間が焼酎ブームに沸く中、大きな損害でしたが、蔵全体が一丸となって復興を目指しました。父が過去に受けたつらい経験を、自ら体験したことで、これからは自分達兄弟が蔵を守る立場にいるとあらためて実感し、共に働く従業員の方に対する責任の重さを感じました。
 災害の前には、父と共に蔵を支えてきた母の死を経験しています。母の闘病生活を機に、兄弟二人で蔵を盛り上げていくことを決意しました。それまで兄弟が本音をさらけ出すことはなかったのですが、母の病がきっかけとなり、それぞれの想いを生身でぶつけ合う事となりました。小牧醸造は兄と私の他に、姉夫婦が携わっています。一般的に、上の者の意見を通すことが当然と言われることが多いと思いますが、我々は逆ですね。一番下の私の意見を、兄や姉が別の角度から捉え、お互いの意見を交換する。家族経営ゆえに懸念される、慣れや甘さも、この時期本音でぶつかりあったことで今のスタイルを確立できたと言えます。
 母の死、災害があったからこそ、今の「焼酎造り」「蔵を守る」事への想いが大きく変わったと思います。マイナスからのスタートでしたが、逆境と向き合ったあの時の経験が私には大きなターニングポイントです。
 災害を全員で乗り越えたことは、私はもちろん、従業員それぞれの自信にも繋がり、焼酎造りへの士気が高まるきっかけにもなったと思います。
 そして何より、多くの方の支えに感謝し、焼酎によって生まれる絆があると気付かされました。焼酎を呑んで下さる皆さんへの責任を果たし、焼酎造りに関わる以上、社員一丸となり同じ想いモチベーションでこれからも焼酎造りに携わっていきたいと思っています。蔵元だから旨い焼酎を造ることは当然でなければならない、それ以上に焼酎を通して人と繋がることができる、絆を作る焼酎造りを目指したいですね。

これからの焼酎造りについて

A 小牧醸造では100周年の節目に、兄と私の名前を一文字づつとった「一尚」という焼酎をつくりました。先代が気付いてきた伝統・技術を守り続けることはもちろん、新しいことをやり続ける開拓者でもありたいと思っています。100年目を迎え、次の100年へ向けて焼酎を造っていきたいと思っています。ワインや日本酒に比べ、焼酎の歴史はまだまだ浅い、だからこそもっと可能性も広がるように思います。
 最近では、八百屋さん・お肉屋さんといった専門店が年々減っています、蔵を支えてくれる酒屋さんも同じです。次の代へと繋げる焼酎を作ることで、焼酎ファンはもちろん、酒販店の方への責任を果たしたいと思います。
 
小牧醸造株式会社
〒895-1816
鹿児島県薩摩郡さつま町時吉12
TEL. 0996-53-0001
HP:
http://www4.synapse.ne.jp/komaki/

※川内川を望む風光明美はさつま町に位置する小牧醸造株式会社。軟水の豊かな水に恵まれ造りだされる焼酎、代表銘柄[小牧]をはじめ、創業100年を記念して造られた「一尚」は、兄弟がこれから先の100年に願いを馳せ誕生した焼酎。100年前から存在する酵母を使用した渾身の焼酎。