■もてなしの心と身体が喜ぶ
にしかわの京料理
京都で生まれ育った私は、日本の美に触れる機会に恵まれ、独立するまでに三つのお店に修行に行かせてもらいました。その中で、お茶の世界から学ぶことが多くあったんです。
茶道の勉強をすると、季節の茶花(茶席に生ける花)を知る必要があり、それは即ち日本料理に相応しい飾り葉や敷き葉(装飾の植物)を知ることに繋がっていきます。客人にどうもてなしをするかということ。このもてなしの心を表すため、料理とともに四季、風習、器、茶花を調和させたしつらいを心がけていますね。
私の中での京料理は、懐石料理なんです。季節の食材から、如何にして五味五感を生み出すのか。コースでは、目でも楽しめるのは勿論のこと、塩味、甘味、酸味、苦味、旨味の味の濃淡を舌で存分に楽しんで頂けるよう意識しています。うちのお店の懐石料理は、その時期旬の食材を中心に70種類以上は使ってます。大前提として、京都の下に流れる八坂神社の御神水で出汁をひき、可能な限り地産地消。身体の内面から健康になる料理を作っています。祇園さゝ木の親方からも教わったことですが、例えば夏場だと、さっぱりした酸味のある一品から始めます。酸味が入ると消化器官に、これから食べ物が入ってきますよと信号を送ってくれるんです。暑さで食欲がなくても胃が活発に動き、栄養摂取がしやすくなるんです。冬だと温かいものからはじめて、先ず冷えきった身体を温めます。懐石のコースのお献立の基本は、お客さんの身体のことを思って考案してます。「沢山の種類を食べることができて嬉しい。」「最近食欲無かったけど、元気になれた」と声を頂いており、嬉しい限りですね。
■三年目の転機
開店してから3年目、大きな舞台でやってみたいという想いから、全面改装しました。実は、当初は他の場所へ移転の予定で物件も決まり、図面まで仕上がっていたんですが偶然にお隣が引っ越されたんです。運命かと思いましたね。ありがたいことに人とのつながりもあって、杉原 明さんにデザインをお願いすることにもなったんですよ。約一年かけて、建坪50坪の数寄屋造りです。
この時が、設えを極めるきっかけになりました。用いる材質一つから勉強し、こだわりが一層強まりましたね。洋と和の融合など建築家が成す絶妙な空間造りを目の当たりにし、新たな視点からを学ぶことができたと思います。
近年の取り組みとしては、ANAのプロディースをはじめ、他のジャンルのシェフとのコラボレーションなどをさせて頂いております。これからも日本料理の素晴らしさを知ってもらうために微力ながらも務めていきたいですね。
■自分で気づいて、自分から動くことを伝えたい
弟子たちが紡ぐにしかわの色
お店にいる子たちに、丁寧に教えることは少ないです。それは自分で気づくことが、何よりも大切だと考えるからです。
本人が食材と向き合って調理していく。考えながら調理していくんです。私のアドバイスは最後に少しだけはいる位ですよ。教えられるばかりでは成長はありません。例えば、器一つにしても秋冬にだんだん近くなると清水焼から瀬戸焼になって…温かみのある厚みのある器になります。こういったことも、本人が知りたい!とならないと、どんなに教えても入ってこないんですよ。人間なので、どうしても料理に集中できない時もあります。私が実際そうでしたから(笑)なので、知ろうとするレベルまで上がって来いって言ってますね。公平に与えられた修行の時間を大切にするのも殺すのも本人次第。自分で目標をもって、伸ばしていくしかないと考えています。感覚は、そこに身を投じることでしか感じられないものです。
京都の料理人は、学ぶことが多岐にわたり、それぞれが深いですね。お客さんも京都の方が多く、書など身近に極めている人が多いですね。普段の生活に、和の文化が密着しているんです。だから料理人も、準じて文化を継承していく。うちでは、会席料理をはじめ、お茶があり、書があり、季節の流れで設えを変えていったりがあります。お店で仕事をしていく中で、全てを修得していってほしいです。
日本料理というの枠の中で、お茶・書・花もあるなかでどうやって己の色を出していくのかは大変なことだと思います。やりたいことは、皆少しずつ違うものです。実際お店をもって、いざ日本料理界に杭となって出てみると、打たれる事もでてくるでしょう。精神的に、打たれ強くなっていかないといけない。自分の中で道を決めて、信念をもって進んでいく。そうすると、やがて周りは気にならなくなって、自身がぶれなくなっていくんです。そういう料理人になってほしいですね。嬉しい事に、うちから独立した料理人は各地で活躍してくれています。にしかわで修行をした子が、新たなる発信してくれているのが負けるわけにはいかないなと刺激になりますし、励みになっています。
うちのお店のモットーは“間口は広く出口は高く”です。近年の人気店には、機会があれば店舗を大きく広げていって欲しいですね。一人より二人、二人より三人と言います。志を同じにする仲間とともに切磋琢磨し、どんどん新しい息吹を自身のお店に吹き込んでくれることを期待しています。そして、自分のお店に来たいと待ち望んでいるお客さんを出来る限り迎え入れて、もてなしていただきたいと願っています。